深夜2時半に自宅を出発した。岐阜まで片道350キロ。高速を乗り継いで、岐阜県内の目的地に着いたのは朝10時半。こういう移動が苦じゃなくなってきたのは、歳のせいなのか、それとも「行く価値がある」と分かっているからなのか。
今回は、知り合いの紹介で、岐阜にある義肢装具の会社を訪問した。代表の社長さんにお会いするためだ。
🏭 作業場を見て、最初に思ったこと
「コンパクトに作ってあるんです。歩数を減らすために」
社長さんの作業場は、古いクリーニング屋の受付スペースや文具屋だった場所を譲り受けて改装したものだ。6畳ほどの部屋が3つほど繋がっていて、ミシンのある縫製スペース、プラスチック加工のスペース、休憩兼宿泊ができる部屋……と、義肢装具の受注から納品まで、3人の装具士がすべてをここで完結させる。
トヨタ生産方式のコンサルティングも副業でやっているという社長さんらしく、動線が徹底的に短く設計されている。「歩く時間は生産しない時間」という発想が、そのまま空間に反映されていた。
人感センサーがあちこちについていて、照明も自動。さりげないようで、積み重なれば相当な手間の削減になる。
🏠 自宅を見せてもらって、言葉を失った
その後、道を挟んだ向かいにある社長さんの自宅へ。
「体育館の中に小部屋を配置した感じ」という表現が一番近い。外壁は社長さん本人が塗った。内装も全部自分でやった。浮いているトイレ、奥様の身長に合わせて設計されたキッチン、電動で床に収納されるテレビ台、隠し部屋、3Dプリンター室、サウナ、半露天の水風呂——。
見ながら、なんども「えっ」と声が出た。
全部、自分でやったのか。設計も、施工も、タイル貼りも、配管も。ガスだけはプロに検査してもらったと言っていたが、それ以外はほぼ全部だという。
「永遠に完成しないんですよ」と笑っていた。そのセリフを聞いて、なんか分かる気がした。「完成」を目指していない人の家だった。
🦾 義肢装具業界の「逆行」を聞いて、唸った
昼食を食べながら、業界の話を聞いた。
義肢装具には「点数」という制度がある。簡単に言うと、医療保険で認められる報酬の単位だ。石膏で型を取ると700点(=7000円相当)。ところが3Dスキャンで取ると200点になってしまう。新しい技術の方が、報酬が低い。
「だから業界で3D技術が普及しないんです。旨味がないから」
電気自動車に補助金が出て普及を後押しするのとは、真逆の構造だ。効率が上がると報酬が下がる。頑張ると損をする。これは制度の問題だが、当事者の社長さんが怒っているわけでもなく、淡々と話してくれたのが印象的だった。「そういうものなので、自分でできることをやるしかない」という感じがした。
💡 スケールが違う、という話
帰りの車の中で、ずっと考えていた。
社長さんは義肢装具士であり、建築家もどきであり、DIYの達人であり、トヨタ生産方式のコンサルタントであり、コーヒーの自家焙煎もやっている。コンテナは自分で作って150万円。プロに頼めば800〜900万円かかるところを。
「面白いことしかない」と言いながら、夜中の3時まで作業をする人だ。
自分と比べるのもおこがましいけれど、「スケールが違う」とは感じた。ただ、それは「すごい人だ、自分とは違う」という距離感ではなくて、「こういう人が隣にいたら、引っ張られる」という感覚だった。
「思いついたら、作ってしまう」という人が世の中にいる。私もそういう方向に、少しずつなれている気がしている。起業してよかったと思う理由のひとつが、こういう人に会えることだ。
今日は愛知の実家に宿泊。今日の走行距離は500キロくらいか。疲れたけど、来てよかった。


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